−晴読雨読−

手塚郁恵著
『森と牧場のある学校』


喜び創造の教育を実践
 
水野 隆夫
みずの・たかお

1944年名古屋市生まれ。北海道大学卒。環境庁パークレンジャーとして各地で勤務。現在,やんばる野生生物保護センター利用指導官。
琉球新聞 2001年2月18日掲載



私が手塚郁恵著「森と牧場のある学校」(春秋社)と出合ったのは、一九九一年の暮れだった。当時、知床の斜里町で国立公園レンジャーをしていた時だ。子どものいじめや部活間題などで悩み、どうしたら学校が楽しいものになるのか、考えていた。夢中で読み、こんなに子どもがワクワクできる楽しい学校を作れる校長先生がいるんだとうれしくなり、思わず涙があふれた。後で、自分だけではなかったことを知った。

「ほんとうに感動しました。小説ではないのに、ぐんぐん引き込まれ、時間がきてもなかなか本から離れられないほど、不思議な力のある本でした。友人は涙を流しながら一気に読んだそうです。千葉・塾教師」「読後、教育の潮流が間違いなく、日本の中に流れはじめたことを感じました。この本を読み、大人たちが本気で子どもの事を考え、行動を起こしていけは、日本の教育も、必ず変わっていくのではないかと思いました。神奈川・主婦」

読者は幅広い年齢層、職種にわたり、特に中小企業経営者に多く読まれ、経営理念の実践化に役立てられているという。国際的な反響も大きく、米国、韓国で出版され、ハングル語版に人口八十万人の富川市の教育長が推薦文を載せている。韓国では日本と似た画一性、暗記教育などの問題点を、一九九五年から始まった教育改革で子どもを主体とした"開かれた教育"を取り入れ、この本の教育実践は良いモデルとされた。ある校長は全教師にこの本を配ったという。"森作り"も広がり、今、日韓の視察交流なども盛んである。主人公の子どもを忘れて迷走するどこかの国の教育改革とは見事に違っている。

この本は新潟県の山之内義一郎先生の校長としての十七年間の「教育は喜びの創造である」の教育実践である。先生は言う。「教育の成功は子どもたちが学校はいいなと感じてくれることが最高の評価です。喜びと感動の中でこそ子供は育つのです。『学ぶ喜び』とは自分の可能性に気付くこと−自己発見であり自己実現へのプロセスなのです」

先生は一九七四年、校長として初めて赴任したへき地の学校では、村全体が教育素材だと気づき、丸ごと体験学習の場とするダイナミックな"総合活動"を取り入れ、村民も先生も村全体も活性化したという。総合とは単なる教科の統合ではなく、一人の人間としてのすべての面を総合的に発達させることだ。二十五年も前に総合学習を始めていたのだ。

先生は都会の学校に赴任すると、子どもの成長には自然とのふれあいが絶対、必要と感じていたので、地域、親、教師たちの協力を受け、校庭にふるさとの樹種で本物の森を作った(参考「森と夢のある学校」新潟博進堂文庫)。森はあらゆる教科の学習教材となった。子どもたちは自分の木と語り、木の言葉を聴き、木に祈った。子どもたちの想像力は素晴らしい。乱暴なN男は森さんからの手紙を自分自身あてに書いた。「N男くんは乱暴者といわれているそうですね。もうちょっと優しくすれば乱暴といわれないんじゃないですか」。木になって自分に手紙を書くと言う事は自分の内面に気づくことで、その後、N男の粗暴さは少なくなったという。子どもには自己教育力があるのだ。

著者の手塚郁恵さん(ホリスティックワーク・センター代表)は日本でホリスティック教育(全体性、生命、つながりを尊重した教育「ホリスティック教育入門」・柏樹社」)を紹介し広げた先覚者である。山之内先生と手塚さんを中心に一九九七年、日本ホリスティック教育協会 ( http://www.hs.jimbun.osaka-wu.ac.jp/~holistic/) が発足し、私も運営委員として参加している。この本を読んだ三年後、私は斜里町民大学で先生の講演会を主催した。ホリスティックな地、沖縄でもお二人が講演する機会をぜひと願っている。


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