ホリスティック教育10年

「つなぎ」で学ぶ喜びを

産経新聞 2000年6月8日夕刊掲載記事(Eページ 教育・2000)より

 知育偏重から心と体のバランスのとれた教育を提唱するホリスティック教育の考え方が日本に持ち込まれて今年で10年。徐々に根づき、次代の教育を支える認識となりつつある。心の闇が深い少年たちが増えている現在、社会や人間関係の断絶をつなぎ、学び、生きる喜びを取り戻す試みが進められている。今月10日、日本ホリスティック教育協会主催の一般セミナーが大阪で開かれ、ホリスティック教育の現状などが報告される。(社会部 河嶋一郎)

知・こころ・体のバランス

 ホリスティックとはホール(全体)やヒーリング(癒し)と同じく、ギリシャ語のホロスという言葉が語源。ホリスティック教育とは「つなぐ」という言葉をキーとして、ばらばらになったものを全体として統合し、関連づける考え方をもとにしている。
  「明治以来、近代の教育は一貫して効率性を追及し、知と心と体を別のものとして、とにかく知識だけつめこむことに腐心してきた。それがここに来て行き詰まりを見せている。近代化を終えた転換期にある今、心と体、教科と教科、学校と地域といったあらゆるものをつなぎあうことで、これからの教育の方向性を大きく変革していく必要がある」

 吉田敦彦・大阪府立大阪女子大学助教授(日本ホリスティック教育協会副代表)はこう話す。
 近代化の過程ではモデルとなる理想像に向かって模倣や応用を繰り返せばそれでよかった。一定の知識を学ぶことがそれを可能にした。しかし、高度成長を遂げ、モデルに追いついたとたん、想像力や創造力を求められるようになった。知識の量ではなく、質が問われるようになってきたというわけだ。

 「同時にこれまでの教育が忘れてきたのが、子どもの太刀に学ぶ喜びや生きる喜びを育てるということ。学校だけが学びの場ではない。生涯学習の時代には、知識の寮ではなく、学ぶ喜びや生活に根ざした学び方が大切になる」

学校は「違いと

出会える場所」に

 今は知識、情報だけならパソコンや情報機器を通して得ることができる。もはや学校は知識を教える場所というよりも、「違いと出会える場所」に役割を変えていくしかないのではないか、とも吉田さんは指摘する。

 様々な違った人との出会い、パソコンで得ることのできない体験、自然とのふれあいなど。同年齢の子どもばかりの教室を離れ、異年齢の子どもたちのつなぎもその一つ。教師の役割も変化を求められ、何か特殊な技能や専門的な知識をもった近所の人が学校で教えるといったこともあっていい、という。

 学校現場で先行実施されている「総合的な学習の時間」に大きな期待が集まっているのも、ホリスティックの考え方に近い、こうした体験型、科目横断型の教育が実践される可能性を秘めているからだ。
 「これまで学校や企業は人材育成をことさら強調してきた。これは子どもたちを『材』としてしか見てこなかったということで、全く【いのち】の視点が欠落している。子どもたちが命のない商品として扱われてきた。それを子どもたちが敏感に感じ取っている。」
 頻発する未成年の事件などは「こうした心、命の問題を置き去りにしてきたところに、生きる意味を見出せず、心の闇の深くにはまった17歳がいるのではないか。子どもたちに生きている実感を与えることのできる学びを展開していかなけば」と話している。

日本ホリスティック教育協会は平成9年6月に設立。
連絡先は電話0258・82・5057。

 10日、大阪で公開セミナー

 日本ホリスティック教育協会主催の一般公開セミナーは、10日午前10時から大阪市天王寺区の應典院で開かれる。
 当日は大阪YWCA教育総合研究所所長、金香百合氏が「つなぐ力」と題したワークショップ。続いて実践交流会として、小中学校の教諭や社会教育の関係者らが「学校と地域をつなぐ総合学習」「女と男をつなぐジェンダフリー教育」「人間と人間を超えるものをつなぐこころ・魂の教育」をテーマにそれぞれ発表する。
 一般2000円。問い合わせは應典院(電話06・6771.7641)。
 また同日午後5時半からは同協会の総会が開かれる。


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